3限、法政基礎演習。一年生が19名。全員に自己紹介をさせる前に、以下のようなお説教を。
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法政基礎演習は、「法学部1年次生」向けの「法学・政治学の入門的授業」であると同時に「学生生活上のガイダンス」ということですので、最初に、何か「大学で学ぶとはどういうことか」みたいなお話をいたします。小中高で聴かされた校長訓話みたいなものですから、おそらくあなた方的にはどうでもいい内容になりそうですが、一応、通過儀礼だと思って我慢して聴いて下さい。
とりあえず、結論からいえば、私があなた方に大学でやってほしいことは次の三つです。
A.自分なりの関心(傾注 attention)を形成して下さい
B.情報収集の技術を習得して下さい
C.情報活用の技術を習得して下さい
とはいえ、これでは何だかよく分からないので、一つずつ説明いたします。
A.自分なりの関心(傾注 attention)を形成して下さい
ここでいう関心とは、何がやりたいとか、どんな自分になりたいといった、過去、現在、未来の自分の生活に方向性を与えるもののことです。そこには低俗なことから高尚なことまで、まとまりのない様々なことが含まれてますから、それを全て自分で把握することはできないと思います。しかも、関心は日々の生活の中で練り上げられ、新たに得た知識と経験によって変容していきます。五年前、十年前のあなた方と、今のあなたがたでは知識と経験の量に大きな違いがありますから、その間にあなた方の関心にも変化が生じているはずです。成長の過程で将来の夢や関心が変わることは当たり前のことですから、そうした変化自体は良いとも悪いともいえません。大事なことは、そういう自分の関心の練り上げ作業に、意識的に関わっていくことです。
自分なりの関心を形成していく作業――ジョン・スチュアート・ミルという人はそれを「教養」と呼びました――は、(1)自分の関心を吟味すること、(2)自分の関心を練り上げること、(3)新しい関心の可能性を探ること、の三つに分けることができると思います。
(1)自分の関心を吟味すること
(1)自分の関心を吟味するとは、要するに、過去の自分にどんな関心があったかということと、今の自分にどんな関心があるのかということを考えながら、自分の中にある、長期的な関心と短期的な関心を区別することです。長期的に自分の生活に方向性を与える関心には必ず生活の中での何らかの裏付けがありますから、そういう関心は信用していいと思います。それに対し、短期的な関心とは、そういう裏付けのない、単なる思いつき的な関心のことで、これを信用して行動すると、自分で自分に騙されてしまう危険性があります。
最近は少なくなりましたが、ちょっと前まで、四回生になってから突然「大学院に進学して勉強したいのですが」と相談に来る学生がときどきいました。そういうときに、私はまず「そんなに勉強したいのなら、既に何か勉強したはずだよね。どんな本を読みましたか」と尋ねることにしてました。つまり、その学生の大学院進学への関心が、何か具体的な裏付けをもった長期的な関心か、それとも何の裏付けもない――おそらくは就職活動が嫌になったとかそういう消極的な動機を秘めた――短期的な関心かを確かめておく必要があるからです。少し胸に手を当てて考えてみて下さい。自分の関心の中には、それに自分の人生をある程度委ねても構わないような信頼できる関心と、信頼できない無責任な思いつき的関心の両方があるはずです。以下、生活の中に何らかの裏付けのある関心を長期的関心、裏付けのない方を短期的関心と呼ぶことにします。両者の違いは絶対的なものではないのですが、両者を或る程度区別しておくことは自己防衛上大切なことです。
(2)自分の関心を練り上げること、
とはいえ、短期的関心に何の価値もないかといえば、そんなことはありません。それは五年後、十年後、長期的な関心へと変容しているかもしれません。また、長期的な関心も、何かのきっかけで生活の中での裏付けを失い、どうでもいい関心に変わってしまうかもしれません。だから、維持したい長期的関心には意識的に裏付けを与えていくべきだし、短期的な関心に自覚的に裏付けを与えていくことで、それを長期的関心に育てていくこともできるはずです。あなた方は将来どんな自分になりたいのでしょうか。そういう自分になりたいという関心は、あなた方の日々の生活の中に裏付けを持っているでしょうか。うまく裏付けを与えることができる人もいれば、できない人もいるでしょう。しかし、できればあなた方には、自分の関心の形成と、それに裏付けを与える作業を意識的に行なって欲しいと願っております。
(3)新しい関心の可能性を探ること
関心の形成は、その人が置かれた歴史的な文脈によって或る程度決定されています。しかし、自分とは異なる文脈を生きている人の関心形成から、間接的にですが、別の関心形成の可能性を知ることは可能です。――あ、難しい言い方をしてしまいましたね。つまり、世の中には、あなた方が思いもつかないような関心を形成している人がたくさんいるので、そういう他人の関心形成から、多様な関心形成の可能性を学びとって欲しいということです。あなた方は各自で自分なりに自分の関心を形成しているわけですが、ときには全く別の関心形成の可能性を探るべく、自分が全然関心を持っていなかったようなことを経験してみたり、他人がどのような関心をなぜ抱いているのか注視してみることです。そして、自分が考えもつかなかったような、新しい関心の可能性について想像してみることです。
B.情報収集の技術を習得して下さい
本とか論文を読んで知識とか考え方とかを身につける作業は大学生活の根幹ですが、それにはコツのようなものが幾つもあります。とりあえず情報収集に関していえば、(1)情報収集を意識しながら本や論文を読むこと、(2)ノートをとること、(3)情報源を確保すること、の三つを実践して下さい。
(1)情報収集を意識しながら本や論文を読むこと
ある分野についての基本的な知識を得たり、重要な問題の所在を知るということを意識しながら本や論文を読むという作業は、あなた方の多くにとって、未経験のことだと思います。何かについて勉強しなければならなくなったら、まずはその分野についての入門書や基本書の類に、ざっとでも目を通す習慣をつけて下さい。また、読むという作業は、情報を効率よく仕入れ、頭に叩き込む作業なので、どの本のどの辺をどのように読むのが最も効率的かということを考えて下さい。文具も重要です。付箋(ふせん)という大変便利な道具の使い方は分かりますか。あと、三色ボールペンを使った非常に効率的な読書の方法を知っていますか。赤青緑のボールペンを片手に本を読み、まあまあ大事なところには青色で、かなり重要なところは赤色で、自分的に面白かったところには緑色で線を引くという読書法です(齋藤孝『三色ボールペンで読む日本語』)。付箋を貼ったり、ボールペンで線を引きながら本を読んだ経験がある人は少ないと思いますが、本の内容を頭に叩き込んだり、期末試験や報告の準備をする際には非常に有効な方法です。線を引くなんて本がもったいないと思う人は、付箋を使うか、あるいはがんがん書き込んでノート代わりにしても構わないような本を古書店で安価で買えばいいと思います(古書店で100円程度で売っている岩波新書や中公新書を、がんがん線を引きながら読む作業は非常によい勉強になると思います)。
(2)ノートをとること
講義を聴いたり、本を読んだりするときに、情報を整理し、頭に叩き込み、後々のアウトプットに使えるようにノートをとることは大事なことです。道具として使えるノートは、作成に三つの段階があるということを憶えて下さい。すなわち、①授業中のメモ、②復習時の補足、③試験前の整理です。この三つの作業を行うために考案されたノートの取り方に、コーネル大学式ノートというのがあります。ただ、これはA4文化圏の話で、皆さんが一般に使うのは見開きでB4の大学ノートでしょうから、見開きのどちらかのページに①授業中のメモをとって、片方のページは空けておく。そしてその空けておいたページに②復習時の補足(事典とか基本書からの抜き書き等)と、③試験対策用のサマリーを書き込むのがいいと思います。いずれにしても、授業中のメモだけでノートが完成するわけではないということは憶えておいて下さい。(あと、他人のノートをときどき見せてもらうことは大事なことです。自分だけでは気が付かなかったことについて新しい発見があるはずです。)
それと、授業のノートをとる際には、教員の授業のスタイルに応じてノートをとることです。板書をそのまま書き写せば美しいノートができあがるというような授業のスタイルをとっている教員はほとんど皆無です。『アカデミック・スキルズ』第二章「講義を聴いてノートを取る」によれば、授業のタイプとノートの取り方には少なくとも次の五つのタイプがあるそうです(佐藤望ほか編『アカデミック・スキルズ――大学生のための知的技法入門』慶應義塾大学出版会、2006、30頁以下)。
①「ひたすら説明、ときどき板書」派教員の授業→キーワードを聴き分け、全体のアウトラインをしっかりつかむようにメモを取る。
②「ひたすら板書」派教員の授業→ひたすら書き写す+板書されない説明もメモする
③パワーポイント派教員の授業→メモを取るのは不可能なので、ハンドアウトをもらえるよう交渉する
④理論派教員の授業→用いられている専門用語を聴き取ってメモし、意味の分からないものについては自分で調べるか、教員に質問する
⑤棒読み派教員の授業→論理展開を追いながら読書ノートを作るつもりでメモをとる。用いられている資料や本を入手して丁寧に読む。
(3)情報源を確保すること
新聞、雑誌、テレビ、インターネット等のメディアにできるだけ触れる機会を設けて下さい。それと、週に一度は大型書店に行って、新刊、文庫新書、専門書のコーナーをぶらついて、どんな本が出ているか、実際に手にとって、目次だけでも立ち読みして下さい。雑誌のコーナーで自分の関心に沿った雑誌を眺めることも大事です。法学部生が読む定期刊行物としては『法学セミナー』と『法学教室』が有名です。図書館にあるので、毎月手にとって、読める記事があれば読んでおきましょう。
C 情報活用の技術を習得して下さい
情報活用については、(1)情報を出し入れするための記憶力と集中力を鍛えること、(2)仕入れた情報を使って文章を書いてみること、(3)仕入れた情報を使って更に高いレベルの情報を処理すること、の三つをやって下さい。
(1)情報を出し入れするための記憶力と集中力を鍛えること
頭に叩き込んだ情報を使って知的活動を行なう最も効率的な練習法は、ちゃんと対策をして試験を受けることです。受験時代に鍛え上げた記憶力と集中力を維持するためにも、年に一回は語学検定試験(手軽なのはTOEIC)と各種検定試験(手軽なのは法学検定試験)を受けることを勧めます。TOEICと法学検定試験は、受けておくと二年生以降のゼミ選考の際に有利になるので是非とも受けて下さい。(法学検定試験は、四級を一年生で、三級を二年生で、二級を在学中に受けるのが理想です。四級と三級は指定された問題集をやれば十分です。)
(2)仕入れた情報を使って文章を書いてみること
受けた授業の内容を1600字で要約してみるとか、何か機会を設けて、自分の得た情報を使って、まとまりのある論理的な文章を書いてみて下さい。はじめは、自分が如何に日本語ができないかということに愕然とするかもしれませんが、どうせ愕然とするなら、早いうちがいいです。
(3)仕入れた情報を使って更に高いレベルの情報を処理すること
授業で教わっていない分野について、自分で入門書を読み、そこで得た知識を使って基本書、専門書へと読書のレベルを上げてみるということをやってみて下さい(法学と政治学の入門書と基本書については『法政基礎演習共通テキスト』第2章に詳しく書いてあります)。ときどき、入門書ばかりを中途半端に読んでばかりという学生がいますが、入門書はそこから更に先に進むための本ですから、さっさと読み終え、次のステップへと果敢に進んで下さい。(そして入門段階に限っていえば、予備校系の本、たとえば伊藤真の『憲法入門』とか柴田孝之の『S式生講義』『1問1答法律用語問題集』を読むことは全然オッケーだと思います。)
ちょっと細かい話をしすぎたかもしれません。繰り返しになりますが、確認のために、まとめておきます。大学では、次の三つの作業を行なって欲しいというのが、私の願いです。
A.自分にどういう関心があるかを吟味し、生活の中で裏付けを与えていって下さい。勉強したいことがあるなら、勉強して下さい。何か資格を取りたいのであれば、ちゃんと準備して、資格試験を受けて下さい。
B.本を読み、ノートをとるという基本的な情報収集の技術を習得して下さい。
C.情報を集めたら、それを使って更に先に進んで下さい。記憶力と集中力をつけてください。
最後に参考文献を上げておきます。Aについては、スーザン・ソンタグという人の『良心の領界』(NTT出版、2004)の「序 若い読者へのアドバイス……」を念頭にお話しました。Bについては、様々な読書術の本を読んで欲しいのですが、とりあえず齋藤孝の『三色ボールペン情報活用術』(角川新書、2003)か『三色ボールペンで読む日本語』(角川書店、2002)と、佐藤望ほか編『アカデミック・スキルズ――大学生のための知的技法入門』(慶應義塾大学出版会、2006)が有益だと思います。
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かなり考えて話したつもりだが、いいたいことは伝わったのだろうか。